絶縁管理と漏電

「絶縁管理」といえば、まず頭に浮かぶのは、「絶縁測定」でしょう。しかし、果たしてこれで十分でしょうか

メガの限界 

漏電は絶縁不良の結果であると主張する人が少なくないのですが、その人にあえて質問したい。

「どの様な状況の所をどの範囲で絶縁測定しましたか」 と。

多分、幹線と、分電盤からの分岐線まてでしょう。いや、負荷回路も測定していると主張する人も多いと思います。しかし、現実の負荷機器を見れば判りますが、数の上では大部分の回路、機器がマグネットスイッチの2次側、リレーの接点の後、リミットスイッチの後に接続されています。接点と接点の間にある回路も相当な量です。

これ等の部分の全ての絶縁測定は現実問題としてまず不可能でしょう。一方で、経験的に

「幹線や分岐回路(表現を変えれば電力を供給するための設備)での漏電は全体の1%以下」

でしかありません。

大部分は「手元スイッチ以後、負荷機器の内部、コンセントの先」で発生しているのです。このことから、通常考えられている絶縁の測定、管理は、絶縁の管理の面から見る限り現実からはかなりかけ離れた存在である事は理解頂けると思います。

(メガーでの絶縁測定を否定するものではない。誤解しないで欲しい。メガーによる絶縁管理には限界があることを理解して欲しいのです。幹線、分岐回路の絶縁測定には漏電管理とは別の存在意義があります。)

別の視点で、絶縁電線の絶縁被覆が剥がれ導電部がむき出しになっており、これが振動などにより金属ケースに接触し、頻繁に漏電していても、絶縁測定時に接触していない限り(機械は止まっているので振動する事はなく、多分接触する事はないでしょう)メガーにはその状況は全く反映されません。判定は事実に反して「異常なし」となる。又、メガーは測定対象物が通電中には測定できません。これらはメガーの如何ともしがたい限界なのです。この様なメガーに対して漏電は機械の稼働中に、接続されている全ての回路の状況が反映されるのです。そしてムキダシの電線そのものは直接は検出できませんが、これが原因で一旦漏電すれば、それが短時間であっても確実に検出できるのです。そして、漏電は問題点が存在する事を確認できるのです。この問題点を順番に詰めていけば最後の不良箇所にたどり着くわけです。(もし、絶縁していなくても絶対に漏電や短絡しないものであるならば、放置しておいても実質的な害はないことになり、問題はない筈です。たとえば絶縁被覆のない母線など)

※ 操作回路の問題は最近ではプログラマブルコントローラー(シーケンサと呼ばれることが多い様です)の出現により、センサー回路、リミットスイッチ、保護回路などが電源回路から切離され、その結果この部分に不良が発生しても電源側に影響しなくなっており、操作回路での測定漏れの問題は少なくなっています。しかし、電磁弁の様に操作にパワーを必要とするものでは電源電圧をそのまま使用するものも多く、負荷側の問題は相変らず残ります。

絶縁不良箇所を調査するに当って、メガーで調査する場合の限界として次のようなことがあります。

実例として壁板を固定するための釘が電線に刺さっており、ここから漏電していたことがあります。この場合両端のブレーカーで切り離せば不良の範囲は比較的簡単に判ります。しかし、どの場所で釘が刺さっているのかは全く見当がつけられません。(そもそも釘が刺さるという発想は出てこないはずです。釘であることがわかれば次の手も出ますが) どうしてもとなると、電線を途中で切断して範囲を絞っていくしかありません。現実には兎に角目で探していくしかないです。埋設してあったり、隠蔽場所であったりしたら最悪です。また見えている場所であっても範囲を絞ることは現実問題として不可能です。細い短い電線であれば簡単に交換してもよいでしょうが、長い電線、太いサイズの電線の場合にはそうはいきません。 何が何でも釘の場所を探す必要があります。クランプメーターを使えば、指示が出れば不良箇所はその先(負荷側)であり、出なくなればその手前と言うことになり、簡単に範囲を絞れます。また、分岐している場合でもどの回路かは電線を切断することなく簡単に判別できます。

これは漏電計の得意分野であり、逆にメガーの限界と言えます。

メガーは落成時の様に負荷回路、負荷機器が何も接続されていないような場合にはそこの状況をほぼ100%掴むことができますが、一旦負荷が接続されると幹線側の状況は掴めても、設備全体としての状況を掴むには無理があります。管理という以上は負荷を含めた全体を掴んでおくことが必要条件であり、メガーの数値だけを頼りにするのは片手落ちと言えるでしょう。

今ひとつは、絶縁不良の判定に絶対的と言っていいほど使われている100V回路0.1MΩ、200V回路0.2MΩの限界値の問題です。いずれもこの限界値の場合に漏電は1mA流れることになります。末端であれば漏電の1mA以下は珍しくありませんが、幹線やB種接地の接地線ではこんな小さい電流のことはまずありません。設備容量的には小さいところであっても、200Vの動力回路では30mA以上、200/100Vの電灯回路で10mA以上は珍しくありません。動力変圧器で200KVAにもなればこんな数値では収りません。漏電が全ての分岐回路に均等に流れておれば、いずれの回路も1mA以下に収るでしょうが(いわゆる絶縁不良箇所はないと言うことになる)、現実にはそうはいかないはずです。すると複数箇所に絶縁不良があると言うことになります。メガーで測定した0.1MΩ、0.2MΩを絶対視しながら、漏電から逆算した絶縁抵抗は低くても問題にならないのでしょうか。矛盾ではありませんか? (計測される電流は、対地静電容量による電流を含むために、単純に絶縁抵抗に換算するわけにはいきませんが、絶縁抵抗が低下すれば間違いなくその分の電流は増加します。そこで計測される電流の何割かは絶縁不良によるものであると判断して次の行動をとる必要があります)  ここでもメガーでの管理の限界を認識すべきでしょう。

この様な事例もあります。一部埋設された分岐回路で、点検時に数mAの漏電が検出された。埋設部分の前後の漏電を測定したら後の方では出ていない。漏電は埋設部分であることが確認できた。それまでは漏電が出ていなかったのでこの事を担当者に報告。数日後には漏電遮断器が働いたが、予告があったので直ぐに対処できた。これは紛れもなく漏電管理をしていたメリットである。

漏電計での計測は最後のポイントまで追求できます。そして多くの場合見れば不良であることが確認されます。しかし、部品の不良といった様な場合には最後はメガー(多くの場合に回路テスターの抵抗レンジで十分ですが)で絶縁不良を確認する必要があります。その後修理、或いは部品の交換と言った措置を取ることになります。

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