漏電管理の開始

  測定にかかる前に

測定にかかる前に確認しておくべき事があります。測定器の目盛りとは関係のない測定限界の事です。これを知らずに測定値を振り回すと、事の解決どころか人騒がせで大恥をかくことになります。最低測定目盛りが0.1mAや0.01mAと云った高感度のものでは特に注意が必要です。

100A程度の電流の流れている電線(当然低圧。周囲が安全上問題のない事を確認しておく事)に写真のようにCTを変わった角度、位置(CTのかみ合せ位置に注意)で接近させ指示がどの程度であるのかを読みとっておくのです。

接近させた電線に流れる電流が100Aからずれていたら、漏電計の指示がこれに比例するものとして換算して下さい。

通常の分岐回路での測定においてはこれら指示の内の最大が測定の最低限界と考えて頭にいれておいて下さい。(外部磁界の影響のないことがはっきりしている場合にはこの数値はほとんど考慮する必要は無い。)

以上を確認できたら測定の本番です。

   漏電測定の基本 

前にも述べたように電力回路では大地を帰線には使用していないので(バンク単位で見れば)B種接地線の電流とフィーダ側の零相分の合計とは等しくなります。そこで、先ず最初にB種接地線の電流を測定する事です。これは電線のサイズがそれほど大きくなくしかも1本であり、更に大電流流れている電線からは離れた位置でクランプできるなどのメリットがあります。ここではあくまで全体の状況を展望すると云う形になります。労力としては最小で済みますが微妙な変化を捉えるためには繊細な注意が必要です。

   何処で測定するか      その時の注意事項  こつ

B種接地線であれば理論的には何処で測定しても同一結果が得られるはずです。所が現実には違ってくるのです。クランプのし易さも問題になります。高圧の充電部に近いところや、低圧でも露出した充電部(母線)近くは安全上の問題も出てきます。すると現実に測定できる場所は意外と限定されてしまいます。

近づき易く、安全で、大電流の流れる電線から離れている場所です。更に紛らわしくない事(B種接地線と他のアース線との区別)も現実的な問題として重要な要素になります。

現実の設備では変圧器端子の下方(オープンフレームかキュービクルで低圧端子がドアの前にある場合に限定されるが)か、アース端子台近くが現実的で良いでしょう。

理想的にはB種接地線を配電盤の前に引き出し、そこに測定用のループを作っておく事です。測定のし易さ、安全性、測定誤差、全ての点で最高です。

一括しての漏電測定はB種接地線で充分ですが、分岐回路での漏電測定も必要になります。この場合にはフィーダの2線ないし3線を一括してクランプする事になります。この場合も理論的にはどこでクランプしても同一ですが、現実的にはスペースの面での制約が大きくなります。更にはクランプするCTの寸法が大きな制約になります。これらの制約を乗り越えてかつ、安全な場所となります。これらはあくまで原則で、現実には相当の無理をして危険と背中合わせで測定する事も珍しくありません。最悪の場合には自慢にはなりませんが短絡させた経験もあります。

分電盤の場合にもフィーダの場合と同様に1分岐線毎にクランプする事になります。ここでは一般的に電線が細くなり電流も小さくなりますので制約は少なくはなりますが、何分にも寸法も小さくなります。数回線分を一括してクランプするなどの横着をすることも現実的には必要になります。もしそこで問題があれば個々にチェックする事になります。

さて実際にB種接地線をクランプしたらCTの角度を変えて見て下さい。指示する値が変化するはずです。クランプする場所も移動して見て下さい。そこでの最大、最小をメモしておいて下さい。

     初回に測定するところ

何を云ってもまずB種接地線です。この場合バンク毎に別個に測定すべきです。

続いてフィーダーの零相分を測定します。B種接地線で異常がなければ、その値がどの程度のオーダーであるかを記録するだけで充分です。この記録は後でトラブルの発生時に役に立ちます。

    幹線側と分岐線について

B種接地線とフィーダーの関係、幹線とその先の分岐線との関係は、理論的には分岐した先の零相分の合計(ベクトル和)が幹線側の零相分になりますが、零相分の位相は同じではありませんので、測定値でみると、幹線側の値より分岐線の零相分の合計の方がかなり大きくなります。単相3線式の場合には分岐が2線式になると、分岐回路の算術合計の方が遥かに大きくなります。これらはそれ自体異常ではありませんので、その実態を知っておく必要があります。

     分岐回路では

電力回路においては大地を帰路には使用していないので、単相2線式では2本一括、3相3線式では3本一括、3相4線式では4本一括してクランプし零相分を測定する事になる。ここで注意が必要な事はアース線を含めた3芯ないし4芯のケーブルの取扱いである。気が付かないで一括クランプすると漏電していても検出する事はできない。

    初めての測定では

  最初の測定である値が出ますが、それがいいのか悪いのか全く見当がつかないはずです。測定を開始した以上、データを積み重ねましょうと悠長なことは云っておれない筈です。少なくともその値がどんな意味を持っているのかを確認しておく必要はあります。まず測定時間。バンク当たり少なくとも5分間、できれば10分間変化のパターンを観察して欲しい。

     絶対値の取扱い

漏電に関しては一律な判定基準はないと述べましたが、測定される結果は例えばほぼ10mAで安定しているとか、最大が20mA、最低が15mAの間を変動しているとかの具体的な数値です。この数値が何であるかの判断が要求されるわけです。第1の判断基準は前記した正常値との比較です。負荷容量、負荷電流などから判断して正常値に近ければ当面問題ないと解釈する。それ以上であれば分岐回路のチェックをする事になる。

       異常と正常値のはざま 

判定基準はないとは云っても、設備容量に見合った正常な状態における平均的な漏電の値と云うものはあります。そこで、この値より小さくて、変化のパターンに大きな段差がなければ、その設備は一応問題ないと判断する事になります。さてその基準ですが一言で言えばそれぞれの設備ごとに作る必要があります。

そして最終的にはバンク毎に基準を作り、その基準を元に管理する事になります。しかし、この基準は負荷設備が変化しない事が条件になります。負荷設備が変化すれば、それに伴って管理基準も変化する事になります。常に柔軟に対処する事が必要です。

バンク一括での漏電が三相動力200V、500kvaにもなると100mA出ていても、それが一概に不良であるとは云えません。最近の新しい機器ではまずありませんが、少し古い機器ではノイズフィルターとして大容量のコンデンサーを内蔵したものがあります。叉、機器の台数(特に半導体内蔵の機器)が多くなればそれに伴い漏電の値も増加していきます。負荷機器の稼働状態によっても変わってきます。従って何mA以下であれば正常で、何mA以上が不良と云った一般論としての判定基準は、技術的には全くナンセンスです。バンク毎に時間をかけて各人で基準を作るしかありません。

       異常の確認 その方法    漏電マップ 回路図

上記のようにしてバンク毎に判定の基準を作りますが、その基準より数mA、10%増加したら、まず問題ありと判断されます。逆に負荷電流が大きく変化していないのに漏電が減少している場合にも問題があります。更に漏電のパターンです。普段はゆっくり変化していたのに階段状に変化するようになった場合等パターンの変化です。

       問題のあるパターン

1分以上の時間を掛けてゆっくりした変化であれば最大値と最小値の幅が10mA以上になっても問題ないと考えられます。この時、負荷電流との関連も観察して下さい。負荷電流と漏電とが比例関係にあれば先ず問題はありません。しかし、変化が明確な階段状になった場合には、不良箇所が接続されたり切り放されたりしている事になります。すなわち負荷に不良箇所がある事になります。しかし、しばらくの間はこの段差が動力回路で10mA程度以下でしたら目をつむっていても仕方ないでしょう。これを越える様だったら、原因究明と云うか確認と云うか、どの負荷で変動しているのかを調査する必要があります。そしてそれが不良なのか、本質的に漏電を発生してやむを得ないものなのかを判断する必要があります。

測定に当っての注意

理想的な漏電の管理をしようとするとmAを正確に測定する必要がでてくる。漏電は絶縁不良が発展して時間的に増加していくとは限らず、漏電の絶対値が小さい場合には合成で減少する場合だってある。そこで漏電の絶対値が問題なのではなく、どの様に変化したかが問題になる。負荷の状況も考慮する必要がある。測定器の性能は測定結果に大きな影響を与える。メーターの読みを補正して判断する必要もある。最終判断は少々厄介になる。

そこで、これから漏電の管理を始めようとする人には最初からmAを問題にするのは無理がある。mAを正確に測定できる漏電計があればいいと云う程簡単ではない。しかし、測定器だけは最初から良いものを持つのがベター。

漏電特有の苦労が少なくて済む。

測定の開始

まず最初はできるだけいろいろな所の電流を測定すること。アンペアオーダーの漏電であれば原因を調査する必要があるが、B種接地線の電流が100mA以下であれば記録に留め、次回の様子を見ること。兎に角数多くの箇所で測定し、実態を掴むこと。理屈は抜きにして実態を掴むことが先決。

そして測定はメーターをクランプして瞬間の電流を読み取るのではなく、できれば、アナログのメーターで時間的な変化をも読み取る。最初はひとつの回路で10分間程度は眺める事。負荷がエアコンだけの様な場合には殆ど変化がないでしょうが、意外なほど大きな範囲で変化するもの。2回目以後は前回との比較になる。ほぼ同一電流、パターンであれば時間は多少短縮しても結構。これでその回路の平均的な漏電の値、変化のパターンを掴む。この段階では良、不良の判断ではなく値、パターンを掴むこと。負荷電流、できれば負荷の内容まで絡めて掴めれば最高。前回と絶対値やパターンが違っていたら、そこで違ってきた原因を探すことになる。しかし、初期においてはあまり気にしないこと。データーの積み重ねを重視すること。

管理としてみた場合、まずは100mA以上の漏電を絶滅させることからスタートすべきだろう。漏電が100mAあれば測定の困難さや、微妙な判断が要求されることは殆どないので、不良箇所を探すコツを比較的簡単につかめると思う。馴れてきたら段々精度を上げていく。この コツ をつかむ コツ は常に測定している回路の状況、等価回路を正確につかんでおくこと。測定の途中で状況を掴みきれなくなったら、回路図を書き頭を整理する位の落ちつきが必要。良い事に電気は理論通りに動いてくれますので。

一段落したら、B種接地線の電流だけでなく幹線、分岐回路の零相分もチェックしていきましょう。クランプメーターもやや大型のものが必要になります。

1台のクランプメーターで全てを賄うのは不可能。幹線では大型が必要になり、分電盤では大型は使えない。場所で使い分ける必要がある。目安としては大、中、小の3台は持っていたいところ。

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