漏電測定用の測定器

絶縁の管理といった面からはメガーは必須であろう。ただし、漏電の管理に関しては出番はまずない。

そして、簡易的なチェックには回路テスターのΩレンジの出番が多い

しかし、電気設備の管理と言った面から見ると、絶縁の管理にはメガーは 停電 しなければならず、日常業務としては全く使えない。漏電の状況によって絶縁の良否を判断するしかない。

そこに必要なのは 「漏電計」 である。具体的には、漏電の測定に対応したクランプメーターということになる

(以下クランプメーターと言った場合には、漏電測定に対応したものに限定し、負荷電流測定を対象にしたものは除外することにする。またここでは直流用も対象外とする)

一般に電流計と言った場合には回路に直列に接続するものであるが、漏電に関しては、そのようなことができないために分割型のCTを使用し、このCTで電線をクランプして測定することになる

この構造であれば、アース線のように1本の電線をクランプし電流を測定する場合のみならず、複数の電線を一括クランプすれば0相分の測定ができるという有利な面もある。

一般のクランプメータはコアを2分割し、これを開いた状態で電線を内側に取り込み、閉じた状態で測定することになる

コアは内側寸法の小さいものから大きいものまで複数の種類がある。 又、コアの形にはメーカーの特徴がでている。

一般にコアの内径小さいものは測定の上限が比較的低いところにあり、内径が大きくなると最低レンジはほとんど変わらないが上限が大きくなるのが一般的である

またコアの形状、開閉操作のやり方はメーカーによって色々と工夫されている。使い勝手、好みの出るところである

漏電測定に関しては殆どの場合、大は小を兼ねないので、測定場所に応じて最低でも3種類程度をそろえる必要がある。

また、サイズの大きい電線が入り組んだ配電盤の裏、分電盤の内部などではクランプできない場合があり、この場合にはコアに相当する部分がフレキシブルになっているものが欲しくなる。種類は少ないが市販されている。

性能に関して

使用する上で意識しておかなければならないテーマとして、次の事項がある

  1. 外部磁界の影響
  2. 周波数特性
  3. 検波方式
  4. フィルター
  5. アナログかデジタルか
  6. 測定レンジ
  7. 指示の誤差

①の外部磁界の影響は漏電を測定するにあたっては、最も重要な事項で、負荷電流の測定用と根本的に違うところである。

クランプ型電流計は、原理的に見て電流の流れている電線の周囲に発生する磁界をピックアップして電流を表示している。従ってメーターの周辺に目的の電線の電流以外の磁界が存在すると指示はその影響を受けることになる。具体的には隣接する電線の大きな電流、変圧器の漏洩磁束等がある。漏電測定用と名打っているものは、この外部の磁界の影響を極力少なくするように設計されている。しかし、影響を完全に  ” 0 ” にすることはできないので、影響を受ける割合によってメーターがランク付されることになる。言い換えれば測定の目的、そして測定場所の環境にあった測定器が必要と言うことになる。

使用するに当たって

まず最初に確認することは測定器のレンジを最低レンジとしCTを100A流れている電線の傍に近づけて見ること。その時 CTの位置、角度を変化させる。位置に関してはCTの分割位置を電線に対して大きく変化させることが重要。そして、それぞれの位置角度に於いてどの程度の数値を示すかを確認する。

これらの数値はそのクランプメータにおける測定可能な漏電の最低値を示唆しているということである。

この数値が10 mAを示すようであれば、これより大きい50mAや100mAの場合には数値を信用しても良いが、1 mA や 2 mAを計測したとしても、その数値の信頼性は非常に低いということになる。

換言すれば測定器の限界を知ること。使用する全てのクランプメーターで確認しておく必要がある。

②の周波数特性は、漏電の波形を観測してみればわかるが、ほぼ全ての場合で正弦波とは程遠い波形をしている。

次の検波方式、フィルタとも絡むが、実際の測定では、指示の違いが誤差の範疇を超える場合があって当然と言える。(ちなみに測定器は正弦波で校正してある) 

漏電の探査にあたってはB種接地線、分岐の幹線、枝分かれした分岐線、これらはサイズが大きく違うので、それぞれで違うクランプメーターを使用することになるが、同一の漏電でありながら指示値が違ってきて、同一ものかどうかの判断に迷うことが多い。

とにかく、現在使用しているクランプメーターの癖を知ることは必要条件。

③検波方式

多くの場合に平均値検波を採用している。波形が歪むとそれに伴い誤差も大きくなる。次のフィルターを有効にしても、高調波分を完全に除去することはできず、フィルターの特性も絡み誤差を大きくする要素になる。

一部の機種で実効値検波方式を採用しているものもある。電力回路での測定には、実効値を表示するので有効であるが、漏電の測定に関しては優劣を持ち出しても始まらない。平均値検波のものとは誤差の範囲を超えて明らかに違う数値を示す。しかし、数値の大小自体が意味を持たない 漏電の管理 として使用する分には測定器の個性としてみた方がすっきりする。

漏電の測定に関しては測定器の個性による指示の差異の方が大きいのが現実である。

④フィルタ

前記したように、漏電の電流は多くの場合正弦波からは大きく離れている。従って、漏電の原因探査にあたっては、場所毎に違う測定器を使用することになるが、数値がかけ離れると同一かどうかの判断が難しくなる。(同じ漏電であれば何処で、どんなメーターを使用しても出来る限り同じ数値であって欲しい) そのためには、それぞれの測定器でフィルタは必須となる。(フィルターの使用により結果として指示誤差の程度が圧縮される。しかし指示の差がゼロになることはない)

フィルターの特性は機種ごとに大きく違う(測定値が同じにはならない)事を前提として測定に当たる必要がある。さらに言えば同じメーカーの同じ形式のものであっても製造年が3年も違うとフィルターの特性が少し違っている。

⑤アナログかデジタルか

電流値が安定しているのであれば無条件デジタルがお薦め。そしてデジタルであればレンジの10分の1以下といった値でも正確に読み取ることができる。

ところが、漏電の場合には電流値が安定しているというのはむしろ稀で、変動している場合の方が多い。このような場合に変動の様子、上限値、下限値を読み取るのはアナログに軍配が上がる。この変動の様子は原因箇所の特徴を示していることになるので探査にあたっては大事な要素になる。アナログ式を古いと侮ることはできない。上手に使い分けることであろう。

⑥測定レンジ

漏電の管理を謳うからには、少なくとも 0.1 mA をそこそこの精度で測定できる必要がある。1mA が正確に測定できない様では話にならない。それ以下のレンジは特殊な用途であればともかく、漏電に関しては必要はなさそう。

ただし、もっぱら原因箇所の探査の為にしか使用しない内径の大きいものにおいては1mAがある程度の精度で出れば充分であろう。

上は最大150Aを計測している。ここまで来れば負荷電流用のクランプメーターでも支障なく使用できる。

⑦ 指示の誤差

測定値には誤差がつきもの。その誤差をどのように考えるか、また取り扱うのか、にかかってくる。

漏電の測定に関して言うならば、現実的な対応として測定器の癖として考えるべきであろう。誤差をとやかく言っても始らない。正弦波でどのように正確に校正したものであっても、波形の乱れている漏電に関して言えば、その指示は機器ごとに測定誤差の枠をはるかに超えた数値を示すものである。(たとえフィルターをonにしてあっても)

困るのは探査にあたって数台の測定器を使用するが、それぞれの癖が出て、漏電が同一ものであるかどうか、の判断ができなくなり困る場合が出てくる

そして、漏電の管理に関して言えば、その細かい数値が(誤差の範囲を超えていたとしても)問題になるのではないということ。

月次点検であれば、その数値が安定しているかどうかが問題になるのである。(同一の施設で負荷である機器の大きな入れ替えがないことが前提、機器の入れ替えがあるとそれなりに変動しても仕方がない)そしてこれの変動範囲が許容範囲を超えたところで、その究明に乗り出すことになる。

また、原因究明に当っては、漏電の原因箇所を探すのが目的であり、そこでは測定値が例え倍半分であったとしても、判断にあたって惑わされることがあるが、最終の原因箇所の探査結果には全く影響を与えることはない。

漏電の管理はそもそも絶対値を問題にするような性格ではないということ。求められるべきは、同じものはいつでも同じであるという安定性であろう。

⑧ Ir方式

これまでに取り上げたクランプメータは、すべて 電線が1本であればそこに流れている電流を、また複数本を同時にクランプした場合には いわゆる0相分 を表示するようになっている(いわゆる I方式)

このI0方式はコンデンサと成分と絶縁抵抗成分とのベクトル合成された値が表示されるので、この数値からは絶縁の良否は直接判定できない。この欠点を解消しようとするのがこのIr方式である。

測定器に電源電圧を取り込み、この電圧を元に

「検出した電流の位相を電気方式を加味してコンデンサ成分の電流をキャンセルさせる」

ことによって実現するという理論に則っている。

しかし漏電電流の波形は正弦波からはほど遠く、結果的にはI方式よりは低い数値で表示されるが、多くの場合現実の抵抗成分に流れる電流よりは大きな値が表示されている。(この電流値から絶縁抵抗値を計算したらとんでもない低い値になる)

この測定値は1つの安心材料として使う分には問題ないがこれの指示に頼る事は避けなければならない。

さらに問題は明らかな不良箇所があると判断された場合。原因箇所を追求するためには電源電圧を取り込む煩雑さが加わるだけで何のメリットも出てこない。

極論すれば不良の原因箇所の追求には全く役に立たない。

結論として、漏電の管理に関して言えば、その細かい数値が(誤差の範囲を超えていたとしても)問題になるのではないということ。

月次点検であれば、その数値が安定しているかどうかが問題になるのである。そしてこれの変動範囲が許容範囲を超えたところで、その究明に乗り出すことになる。この事から考えれば指示の安定、具体的には同じ電流であれば時間がずれていても、また違う場所であっても同じ値を示す事が必要である。そこに誤差があってもそれは考慮する必要なし。

また、原因究明に当っては、漏電の原因箇所を探すのが目的であり、測定箇所により測定値が例え倍半分であったとしても(ここまでひどいと惑わされるが)探査の結果には全く影響を与えることはない。

漏電は、アース線で見れば1本線に流れる電流だが、フィーダーや負荷側の回路では2本或いは3本、場合によっては4本の電線に流れる電流の零相分となる。この漏電を測定するには鉄心を分割型にしたクランプ型のものが最も現実的な方法である。

そこで、現実の製品としては、寸法的な面で見ると、

100mm2 程度のB種アース線をクランプする目的の内径の小さいものから、太い複数本で構成される幹線の零相分まで測定できる内径が100mm超と言ったものまで商品化されている。小型のものでは作業着のポケットに入れて持ち歩くことも可能。

一方で測定レンジは小さい方は0.1mA以下を表示できるものから、大きい方では対象が回路電流の測定も可能な様に3000Aといったものまである。

管理用としてみた場合には通常B種接地線の電流を見ているので、小型のもので測定範囲も数mAから100mA程度もあれば十分なので、小型の2レンジ程度のものがまず必要になる。この種のものは測定精度もそこそこあり、安心して使用できる。

しかし現実の漏電は小さいとは限定されておらずアンペアオーダー、10Aを超える場合もあるので、その絶対値を知るためにはアンペアオーダー以上を測定できるものも必需品になる。

調査の必要のある電流が検出された場合には、漏電の原因がどの分岐回路であるかを調べる必要があるが、この場合には分岐回路の電線をクランプする必要がある。

変圧器容量が100KVA程度であればクランプCTの内径は40mmもあれば間に合うが、変圧器の容量が増加するに伴いフィーダーの容量も増加する傾向にあり、より内径の大きいCTが必要になる。

測定レンジは、小型のものでは寸法的な制約から2レンジ或いは3レンジ程度のものが多いが、CTの寸法が大きくなると寸法の制約が少なくなり、5レンジ、6レンジのもの、アナログの場合には10レンジと言ったものまである。漏電測定用と言われるものでは寸法が大きくなっても多くの場合最低測定レンジは大きくは変わりませんので、その意味では大は小を兼ねることになります。しかし、大型のものを混雑した分電盤では使用することはできず、現実には兼用はほどほどにと言うことになります。

現実的に、測定が必要な場所で使用できないようではそこで探査が中断することになるので、少なくとも大きさ別に最低でも3種類は必要になります。

測定そのものは必要な箇所で寸法とレンジを満足するものがあれば十分。しかし、原因ヵ所の調査の場合にはそうはいかない。現実の漏電は間欠的に発生する場合が非常に多い。発生の周期が一定で安定しておればその周期の間に漏電が出なければその回路には原因ヵ所がないことになる。これを繰り返していけば原因ヵ所を突き止めることができる。しかし、不規則に漏電が発生する場合には、クランプして一定時間待って漏電が出ないからと言って、回路の良否は判定できない。この場合にはB種接地線にも漏電計をクランプし、B種接地線で漏電が発生したときに分岐回路がどうであったかで判断する必要がある。この場合最低2台のメーターが必要になる。さらに効率的に調査しようとすると台数が多いほどよいことになる。

これを一層効率的に進めようと考えれば専用の記録計も必要になります。

たまに漏電するらしい、と言った可能性がある場合、或いは漏電していないことの確証が欲しい場合には漏電を継続して監視するための記録計が必要になります。これには連続チャートで記録する方法と漏電が一定値以上になった場合にその時刻、電流値などを言うなればデジタル的に記録する方法とがあります。状況と好みとで使い分けることになるでしょう。又、常時監視装置もこの場合には対象になるでしょう。

最近では負荷にインバーターが多用されていますが、これは負荷電流に高調波を発生させる原因となっています。負荷電流の高調波は漏電、0相分にも影響を与え、漏電、0相分にも多くの高調波を含むことになります。当然通常の測定器は高調波を含んだものを測定値として表示しますが、場合によっては高調波が基本波の数倍から10倍以上に達する場合があり、取り扱い上注意が必要になります。この問題を解決する手段として、

(1)高調波のフィルターを付けたもの、

(2)各調波毎の絶対値を表示できるもの、等が出現しています。

フィルターのついたものはフィルターの on,off によって基本波だけの測定値、高調波を含んだ測定値を区別して表示できます。この区別で漏電の性格を判断できることになります。

基本波、高調波の次数毎の値が判れば漏電の性格を一層詳細に知ることができます。

これらの目的に沿った測定器は種類は多くはありませんが、製品化されています。突っ込んだ漏電の管理をするためにはこれらも必需品になります。

以上のように測定箇所、周囲条件、目的によって必要な台数を揃えることになるでしょう。

現実には指示値がそのまま漏電の電流値になる訳ではないので読み取りのノウハウも必要になります。

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