漏電の技術論

電気は現代社会においては、エネルギー源としてだけでなく、通信、制御、記録などありとあらゆる分野で絶対に欠かせない存在になっています。しかし、表の良い面ばかりでなく裏の困った現象もあります。その代表が漏電でしょう。まるで電気の害の根源のように見られています。

その漏電をあえて定義すれば「本来の目的に沿って負荷に流れる電流以外の電流、ざっくばらんに云えばB種接地線に流れる電流、別の言い方ですれば、フィーダーの零相分」ということになるでしょう。純粋な電磁理論から言えば問題がありますが、漏電の管理といった実務面から見れば(違いは測定誤差以下であり)必要かつ十分ではないでしょうか。以下この前提で進めたいと思います。

基本波に比較して周波数の高い成分(当然高調波を含みますが)についてはこのとおりにならない場合がありますが、実態が解明できておらず、将来の課題です。希望的観測ではこの成分に事故、トラブルのシグナルがありそうです。

回路的に見れば下図(図a)のように回路の絶縁抵抗成分に流れる電流、コンデンサー成分に流れる電流の合計ということになるでしょう。この電流はB種接地の線に流れる電流、またはフィーダーで零相電流として検出される。

ここでコンデンサー成分は電線路の対地静電容量そのものであり線路の状況によって定まるものであり、漏電の測定、管理に関しては邪魔な存在ですが、これを勝手に減少させることはできない。

ここで機器が絶縁不良になれば抵抗値が小さくなり、必然的に漏電としての値が大きくなる。

人が触って感電した場合にも、等価的に抵抗が並列接続された事になり、結果的に漏電が増える事になる。

対地間の絶縁抵抗は電線そのものは数100MΩあり、少々並列に接続され、又延長したところでMΩの一桁台まで低下することはまずない。しかし、ブレーカーの端子部分、接続用の端子などでは埃などでMΩ台に低下する事も珍しくない。それでもこれを100V回路、200V回路でみた場合、ここに流れる電流は0.1mA以下となりコンデンサー成分に流れる電流に比べて非常に小さく、通常ではこれら部分的なものは無視して十分である。

漏電の管理といった面からみた場合、線路の状況だけを考慮したのでは問題解決を誤ることになる。

通常は第一段階でB種接地線の電流を測定するが、ここには線路の漏電だけでなく負荷回路で発生する漏電をも含んでいるのである。負荷回路(負荷に至る電線のみならず、ここに接続されている機器、部品、操作回路をも含む)も電線路と同様対地静電容量、絶縁抵抗成分の電流がある。この前提は測定に当たって絶対に忘れてはならない大事な事である。

通常負荷は運転していなければ回路からは切り離された状況にあり、当然のことであるが、漏電に関しては影響を与えていないことになる。しかし、多くの電灯ではスイッチは1点切りであり、3相回路でも接点2個でon,off している場合があり、この場合には例え運転していなくてもそれなりの影響は出てくる。

又、機械の元スイッチがonであれば操作回路の一部は常時通電されている。機械そのものが運転していないからといって最初から無視する訳にはいかない。注意が必要である。

ここまでは漏電測定の経験がなくても図面上、頭の中で見当のつくことであり、議論の余地はないはずである。

しかし、負荷の中身がどんな状況であるかは図面や頭の中からは出てこない。実測すれば一目瞭然であるが、不良でないにもかかわらず、いろいろな形での漏電が出てくる。これがまた種々雑多で、ひとくくりの理論で片づけられるものではない。先ずは測定を開始して比較的早い段階で経験する負荷の内部の漏電に関係する問題点を個別に探っていきたい。

負荷側の問題点の第一はノイズフィルターである。

このフィルターは図bのようにコンデンサー3個で構成されるものが古くから使用されているが、これが対地間静電容量を構成する。この静電容量は通常の電線路の対地間静電容量に比較して大きな値となる。当然の結果としてここに流れる電流は無視できないそこそこの値になる。 (フィルターの変形は多数あるがここでは省略する。)

また機械の内部の配線、あるいは部品の対地静電容量も無視できないものがある。

電源電圧に歪みがあると、たとえ電圧は小さくてもコンデンサーのインピーダンスZcは周波数に反比例して小さくなっていくので電流値としては無視できなくなってしまう。これも注意点である。

更に、インバーターに代表される電流に歪みを発生する機器においては、等価的に機器が高調波の電流源と見なされ、高調波成分の漏電を発生させる。

電線路、負荷回路いずれも全く問題のない状況において、これらの合成された電流がB種接地線に流れ、また電線路においては零相分として検出される。そして異常(絶縁不良)が生じた場合にはこれらの電流に異常の成分が(ベクトル的に)上乗せされたものが流れることになる。

現実に管理する段階になって、厄介なのは負荷が常に一定ではなく、ON,OFFを繰返し、制御回路においてはそれより遙かに高い頻度でON,OFFを繰返し、零相分が変動していることである。当然の結果として、漏電が平常状態において常に変動していることになる。漏電が増えたから悪い、減ったから良くなったとは言えないのである。

以上のことを前提にして電気回路方式毎に基本的な事を考えてみたい

単相2線式

前記した図aがその典型である。電圧側の回路で絶縁の低下と共に抵抗成分による電流が増加していき、コンデンサー成分の電流より大きくなり、ついにはいろいろな障害を及すいわゆる漏電の状態になる。

ここで接地側の電線の絶縁抵抗は多くの場合無視されるが、ここでは電線での電圧降下分の電圧によって漏電が発生することになるために、電圧側の電線の漏電と比較し同一絶縁抵抗の場合にその絶対値が小さく(最悪の場合でも10分の1程度)、しかも負荷電流が0の場合には全く流れないだけである。接地側では絶縁不良があっても漏電しないと主張している人もいるが、これは明らかな間違いである。

接地線側の対地静電容量の影響は意図的に大きなコンデンサーが(対地間に)接続されていない限り無視して支障がない。

ただし、この接地線側の漏電の状況(特に位相)は電圧側とは全く違っているので判断には注意が必要である。

次の図cはその状況である。

ここでの漏電は負荷電流が

  • 接地側電線と、
  • B種接地から大地、D種接地の直列回路、地絡地点

とに分流し、B種接地側に流れた電流が漏電として検出されることになる。表現を変えれば電線の電圧降下した電圧により、接地線の回路に電流を流すことになる。

電線の電圧降下によって漏電が発生する当然の結果として、負荷電流が流れていない場合には漏電は発生しないし、負荷電流が小さければ漏電の値も小さい。一方、モーターの起動電流のように定格電流に比較し大きな電流が流れると、瞬間的ではあるが大きな漏電となる。その結果、性能の悪い漏電計では瞬間的には計測されるが継続する漏電の判別ができなく、原因追及が頓挫することになる。

漏電は絶縁抵抗の値ではなく、負荷電流が大きな要素となる。ただし、漏電の最大値は電線の電圧降下とB種接地の抵抗値、地絡点のインピーダンスが握っている。

漏電管理では漏電の瞬間的な絶対値をとやかく言うことは少ないので問題は少ないと思うが、B種接地線で計測される電流はコンデンサー成分の電流と分流した負荷電流の合成と言うことになる。すると、負荷電流の位相、力率が影響してくると言うことである。忘れてはならない注意事項である。

単相3線式

これは単相2線式が対称的に接続された形であり、図dの様になる。漏電はベクトル的に逆向きのものが加わった形になるので、変圧器容量には関係なく、通常は非常に小さな値になる。R相、T相の条件が全く同一(Cr=Ct,Rr=Rt)であれば理論上は漏電は 0 になる。

この様に平常状態では漏電の値が小さいので、比較的小さな絶縁不良でも変化の比率としては大きく出るので、早い段階での不良の発見が容易であると言える。現実には1mA変化したら問題点が確実に見つかる。俗に言う0.1MΩの不良箇所が発生したことになるのである。

三相3線式1線接地

通常S相が接地され、R相、T相が対地電圧200Vの状態で運用されている。この状況を前提にして話を進める。

回路的には前図(図d)と同様なるが、電源は三相になる。単相3線式の場合と同様にB種接地線に流れる電流は通常の状態においてはR相、T相の対地静電容量による電流が大部分で、絶縁抵抗に流れる電流は無視して差支えない。ただし電流値は、R相、T相は位相が120度ずれているので、そのベクトル和と言うことになる。

この平常状態のところで絶縁不良が発生するわけであるが、絶縁不良がR相であるのか、T相であるのかによって同じ条件であっても検出される電流値は違ってくる(漏電がアンペアオーダーにもなれば関係なくなるが) 従って電流値が同じだからといって不良の程度が同じとは限らないのである。逆に電流値が小さいからといって不良の程度が小さいとは言えない。また、S相で絶縁が極端に低下した場合には単3の場合と同様にS相の電流が分流する形になる。この場合も負荷の力率のことを頭に入れておく必要がある。

機械の制御回路に電源回路の200Vを直接使用している場合が少なくない。この制御回路は当然対地静電容量を持つが、その値は無視する訳にはいかない。又、回路部品の対地静電容量も少なくない。漏電の原因箇所の調査には特段の注意が必要になる。困った事にこの場合には平常時の漏電(対地静電容量分)が多いのである。最近では制御回路にシーケンサを使用する事例が増え、この場合には制御回路が200Vの主回路とは縁が切れるので漏電は主回路だけが対象になり、漏電管理の面からは楽になる。

三相3線式中性点接地

400V回路が代表的なものと言える。

単相3線式の場合には位相が180度違う形で対称的であったが、ここでは120度ずつずれた形になっている。

その結果、3相バランス負荷である限りは単相3線式と同様にキャンセルされて漏電の値は非常に小さくなる。ただ、単相負荷が入ってくるとこれを完全にバランスさせることは困難で、不良が全くない状態においてもそれなりの漏電は検出される。それでも正常である限りは絶対値としては大きくはならない。単相3線式の場合と同様に少しの不良でも変化の率としては大きく出るので比較的小さい不良も早い段階で検出できることになる。

しかし、負荷にインバーターが入ると、高調波の問題が出てきて、第3調波は位相が重なり、第3調波の大きな0相分として表に出る(計測される)事になる。

400V回路では原則として制御回路は別電源(400Vとは縁が切れる)となるために、回路としては主回路だけであり、シンプルで、問題の発生は少ないのが特徴である。

変則V結線による動力、電灯兼用バンク

小容量の受電設備で、契約電力が変圧器容量で決定された時代に一部で採用されている。

図fの様な結線になり、相順を R-S-T とすると、対地電圧はR相が173V、S相、T相が100Vとなる。電灯回路では単相3線式と全く同一に扱える。3相回路では対地電圧の関係が通常とは異なっているので管理面で注意は必要であるが、通常の使用には何ら支障はない。漏電に関しては、それぞれの対地電圧によって電流を流すことになるが、電圧関係が複雑になった分だけ電流の分析は厄介になる。電流値は一般論として三相3線式1線接地の場合より小さくなる。

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